更新时间:05-20 (巧乐兹)提供原创文章
要 旨:「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治の「製作年代不明」の「未完成作品」と言われながらも、賢治の没後、十字屋書店版宮沢賢治全集(1939~1945)、筑摩書房版第一次宮沢賢治全集(1956~1958)などに寄って世に知られてから、数多くの読者に愛読され、その独特な空間感覚や哀愁の漂う雰囲気などで高く評価されている。なお、「銀河鉄道の夜」の創作は賢治の妹のトシの死の直後であり、賢治は一度妹トシの魂との交感を求める旅行を経験し、この旅をモチーフとする作品が多く作られ、「銀河鉄道の夜」もその中の一つと考えられている。また、この作品は一度に完成したのではなく、「初期形」「第二次稿」「第三次稿」から「第四次稿(最終形)」へと、各原稿の変遷過程での削除と加筆を経て、現在の形に至っている。
「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治生涯の傑作と呼ばれ、彼の独特な空間感覚によって創作された数多くの作品の中でももっとも輝かしい存在であり、宮沢賢治文学の全体を理解するための重要な糸口となる作品だと言われている。従って、「銀河鉄道の夜」に関する研究も現段階までに、数多く展開されている。そして、この作品が創作されて以来約八十年間を経た現在に至るまでの間に、行われた先行研究を整理し、分類すると、主に(1)宮沢賢治の伝記研究から着手し、作品「銀河鉄道の夜」との関連に言及した研究。(2)登場人物、各場面やキーワードなどを中心に作品の真髄を探ることを目的にした研究。(3)「初期形」から「最終形」への変遷から見る創作意図の透視を中心に展開された研究、の三種類に概括できる。しかし、この銀河の世界で展開される物語には膨大な情報が秘められている。だから、この三方面から展開された研究でも未だに言及されていない領域が存在している。その空白部分を埋めるには新しい研究視点に基づいた検討が必要とされる。ゆえに本研究では原作の最終形(第四次稿)に即し、先行研究を踏まえたうえで、「象徴記号」という新しい視点を提出し、「銀河鉄道の夜」の物語世界における象徴記号の意味の探求を中心に論述してみたい。さらに、「象徴」という語彙自体に「暗喩」の意味が隠されている。本研究は文学研究法を目的としながらも、これに記号学の理論を援用して論述を展開する。
「銀河鉄道の夜」は全体が九章に分けられ、主人公ジョバンニは、漁に行った父が帰らず、母が病気のため、苦しい家計を支えるために、毎日活版所で活字を拾い、お金を稼ぐ生活をしていた。だから、仲間から疎外され、意地悪されたが、小さい時からの友達だったカムパネルラだけはジョバンニに優しかった。ジョバンニはカムパネルラに憧れていた。カムパネルラは、「銀河鉄道の夜」の副主人公として終始登場し、作品における重要な位置を占めている。従来の研究においても、カムパネルラに関する論述が多く展開されており、その中で特にカムパネルラは賢治の妹トシの化身という説と、それに反対する意見とが対立している。しかし、本研究ではそれらの観点のいずれにも与せず、カムパネルラを、ジョバンニの幸福探求の途上における一つの道標を象徴する記号的存在と見る。
賢治の生涯の経歴を振り返って見ると、彼は敬虔な宗教信者であったことが分かる。賢治は父の宗派に逆らい、24歳の時に法華経を重視する日蓮宗に改宗した。ゆえに、「銀河鉄道の夜」の世界では仏教思想に基づく献身的精神が至る所に見られる。さらに、賢治の宗教への関心は<法華経>だけでなく、他宗教にも及んでいる。そのもっとも特徴的な現われは、作中の「死」に関する表現である。この物語の世界では、「銀河の旅は死後の旅」とも言えるため、乗客たちもジョバンニ以外は死者であることに、読者は物語の進行に従って気づくであろう。しかし、この物語における「死」の象徴的意味は一つに限定されず、複数の宗教における「死」の意味を包括している。したがって、本研究はわずかしか現れない「死」という象徴記号の現れる第八章と第九章に焦点を絞り、各章別に、複数の宗教における死の象徴的意味について論述してみたい。
さらに、ジョバンニの銀河の旅の目的も、ある象徴的な意味を帯びている。そこで、ジョバンニの視点に立つと、彼は牛乳の入手と父の帰還という終局を迎える直前のクライマックスシーンで、親友カムパネルラを失ってしまったことになる。しかし、読者の視点から見れば、ジョバンニは銀河の旅を経験し、いろいろな献身的精神を見てきた結果、物語の結末に至って、自らの幸福観を見つけ、「ほんたうの幸ひ」に気づく自己昇華と自己再認識をやり遂げたことになる。すると、この幸福探求の旅の物語は象徴記号「ほんたうの幸ひ」とは何かという、読者への問いかけを含んだ旅物語であったと解するもできるのである。
このように、「銀河鉄道の夜」における数多くの記号の中から本研究では、象徴的意味がもっとも重要と思われる三つ――「カムパネルラ」「死」「ほんたうの幸ひ」を抜き出し、その意味を検討してみたい。これは、宮沢賢治の深層心理と「銀河鉄道の夜」の物語世界の究明に役立つと思われる。また、賢治文学における宗教観、空間感覚、死生観などの研究にも資するところがあると考えられる。
キーワード:象徴記号 ジョバンニ カムパネルラ 死 ほんたうの幸ひ